サルカンに期待すること

 現在、日本では少子高齢化と大都市への人口集中によって過疎の地域が拡大しています。また、過去の造林事業や土建事業によって森が針葉樹林化し、分断されて、シカ、イノシシ、サルなどの野生動物が畑や人里に出てくるようになりました。農作物の被害や人身事故が頻発し、このままでは安心して暮らすことができなくなりつつあります。

 さらに、近年はUIJターンが流行り、都市の若者たちが「関係人口」、「流動人口」として地域へ流入するようになりました。これらの若者たちは地域の伝統ある暮らしを知らず、野生動物の扱い方も心得ていないため、大きな被害や事故につながる恐れがあります。

 これらの事態を防ぎ、地域の人々が安全・安心な暮らしを送るために、野生動物と適切な接触を保ち、被害を防除していかねばなりません。本来ならば、こうした仕事は国や地方自治体が担うべきものだと思いますが、日本ではドイツやカナダのように狩猟免許を持って野生鳥獣の管理に当たる専門家が圧倒的に不足しています。こうした事情を踏まえ、2018年に環境省から当時日本学術会議会長であった私に、「人口縮小社会における野生動物管理のあり方の検討」をするように審議依頼がありました。さっそく多様な分野の専門家を集めて審議し、翌年にその結果をまとめて回答しました。内容は、地域資源を持続的に利用するためのルールや仕組み、科学的データと市民に開かれた学術研究の仕組みを構築し、そのための地域コミュニティの役割を明確にして、統合管理のための省庁間の連携と自治体の専門組織力を強化する必要があるということです。そして、地域に根差した野生動物管理の専門職人材を育成する教育プログラムを早急に立ち上げる必要があると提言しました。

 ニホンザル管理協会(通称サルカン)は、こういった現況の下に専門家たちが互いに呼び掛けて集まり、ニホンザルをはじめとした野生鳥獣によるさまざまな問題解決を図り、地域の活動を支援する一般社団法人です。日本に生息する野生鳥獣のなかでは、ニホンザルが最もよく研究されており、70年以上の歴史があります。しかし、地域によってその生態は大きく異なっており、知性が高くて新しい事態にもすぐに適応してしまいます。一律の対処の方法では被害は軽減できず、これまでに蓄積された各地の経験と科学的な手法を組み合わせ、市町村や県の境界を越えてその動きをコントロールする必要があります。また、現場ではサル以外の野生動物への対処も同時に必要になります。

 サルカンはそのための知識や技術を集積し、様々な問題に対処できる解決策を考案し実施してきた専門家が集まっています。ぜひ、現場で困っている人々や自治体と緊密な連携を取りながら、全国のモデルとなるような有効な解決策を見つけ出し、実施に移していただきたいと思います。それが結果として地域の社会力を高め、若い世代が流入してくるような魅力になることを期待しています。

山極壽一(京都大学名誉教授)